がんはもはや不治の病ではない?免疫療法の力を読み解く

「がん」と聞くと、誰もが一瞬息を呑む。しかし近年、この“死の宣告”に変化の兆しが見え始めている。その鍵を握るのが、私たち自身の体に備わっている“免疫”の力だ。
■ がんを倒すのは、体の中の“警備員”
免疫療法とは、私たちの免疫システムが本来持つ「異物を見つけて排除する」機能を強化し、がん細胞に立ち向かわせる治療法である。手術・化学療法・放射線療法に次ぐ“第4のがん治療”として、注目を集めている。
中でも大きなブレイクスルーとなったのが、「免疫チェックポイント阻害剤」の登場だ。がん細胞は、免疫細胞の攻撃を逃れる“ブレーキ”をかけることで生き延びている。この“ブレーキ”を外す薬が、2010年代に登場し、多くの患者に新たな希望をもたらした。
この研究は2018年、ノーベル生理学・医学賞としても評価され、科学界に大きな衝撃を与えた。受賞者の研究により、「PD-1」や「CTLA-4」といった分子ががん免疫の“鍵”を握っていることが明らかになった。
■ 数字で見る、免疫療法の“希望”
実際に、免疫チェックポイント阻害剤が導入されたある進行性がんの治療では、従来の生存率が約15%であったのに対し、免疫療法を取り入れた後の長期生存率は約35%にまで改善されたと報告されている(複数の医療研究機関による第三者検証あり)。
また、2023年の国際医学会における発表では、あるタイプの悪性腫瘍に対して、免疫療法単独または併用で治療を受けた患者のうち、およそ20~30%に明確ながんの縮小が確認されたという。中には、長期間がんの進行が止まり、社会復帰したケースも報告されている。

■ 実例:もう一度人生を取り戻した患者たち
ある60代男性は、再発を繰り返す難治性がんと診断され、標準治療では効果が見込めない状況に陥っていた。医師の判断により免疫療法が導入されたところ、治療開始から数カ月でがんの進行が抑えられ、体力の回復とともに家族との旅行まで実現した。
このような症例は決して一部の奇跡ではなく、国内外の医学誌にも数多く掲載されている。もちろん、すべての患者に同じ効果が得られるわけではないが、「希望の扉」が確実に広がっていることは否定できない。
■ なぜ効く人と効かない人がいるのか?
免疫療法には“効く人”と“効かない人”がいることも事実だ。近年では、「バイオマーカー」と呼ばれる指標によって、治療の効果を事前に予測できる可能性が高まってきた。例えば、がん細胞の遺伝子変異の量(TMB)やPD-L1の発現レベルなどが、治療選択の判断材料になっている。
これにより、より“適切な患者に、適切な免疫療法を届ける”という精密医療が進みつつある。医師は、治療前にこれらの検査を実施し、期待される効果と副作用のリスクを見極めたうえで、患者とともに方針を決めていく。

■ 実際に治療を受けるまでのステップ
免疫療法を受けるには、まず専門医による診断と検査が必要だ。以下が一般的な流れである:
主治医との相談:現在の治療状況や選択肢を確認
バイオマーカー検査:適応可能性の判定
専門医チームの評価:複数の診療科による協議
治療計画の決定と説明:効果や副作用の予測
治療の実施:点滴などによる定期投与
経過観察と調整:副作用対策と効果のモニタリング
また、治療中には免疫の過剰反応(自己免疫性副作用)が生じる場合もあるため、専門的な医療管理のもとでの慎重な対応が必要とされる。

■ 科学に裏打ちされた“希望”として
免疫療法は、魔法の治療ではない。効果は個人差があり、副作用のリスクも無視できない。だが同時に、それは「もはや治療の選択肢がない」とされた患者にとって、“科学に裏打ちされた希望”でもある。
多くの第三者研究機関による解析、国際学会での症例発表、医療ガイドラインの改訂など、数々の証拠が免疫療法の信頼性を支えている。がん治療は今、従来の常識を覆す局面に入っているのだ。
■ おわりに:私たちにできること
がんの治療法は進化し続けている。その中で大切なのは、「正しい情報」を持ち、自分にとっての最善の選択をすることだ。免疫療法もまた、その選択肢の一つにすぎない。しかし、その一つが、人生を変える力を持っているかもしれない。
情報を知ることは、希望を持つ第一歩だ。がんという巨大な課題に、人類は科学という武器で挑み続けている。未来は、まだ書き換えられる。