「老いる」とは「生きること」――日本高齢者の健康生活に迫る特写
長寿国・日本の裏側にある現実
日本は、世界でも有数の「長寿国」として知られている。2023年の厚生労働省の発表によると、日本人の平均寿命は男性81.05歳、女性87.09歳を記録し、世界トップクラスだ(厚生労働省「令和4年簡易生命表」)。だが、この数字の裏には深刻な課題が潜んでいる。平均寿命と健康寿命の差――つまり「介護を受けずに自立して生活できる期間」との間に、約10年のギャップが存在するのだ。
「長生きはしたい。でも、寝たきりや認知症で過ごす10年は望んでいない」。これはある80代の女性が語った言葉だ。では、どうすれば高齢者が「健康に」「自分らしく」老後を過ごせるのか?この記事では、食事・運動・睡眠・心の健康・社会参加という5つの軸から、現代日本の高齢者生活を特写する。 <!- more -->

1. 食事:孤食を防ぎ、楽しむ"共食"文化へ
高齢になると食欲が減退し、栄養バランスが崩れがちだ。農林水産省の「食育白書」(2022年)によれば、65歳以上の約28%が「週に3回以上1人で食事をする」と回答している。孤食は栄養不足だけでなく、うつや認知機能の低下にも関連している。
一方で、地域の「食事会」や「ふれあいランチ会」などの活動が注目されている。東京都三鷹市では、地域住民が月に2回、高齢者を招いて手作りの昼食を提供する取り組みを続けており、参加者のうち87%が「孤独感が減った」と回答している(NHK地域福祉レポート, 2023)。
提案:
地域の食事イベントに積極的に参加する
「作って届ける」ボランティアの仕組みを利用
食事そのものを「楽しみ」として再定義する

2. 運動:動くことが、生きる力につながる
高齢者にとって、運動は転倒や寝たきりを防ぐ最大の武器である。厚生労働省の「健康日本21(第二次)」では、65歳以上の高齢者に対して「週に合計150分以上の中強度の身体活動」が推奨されている。
愛知県名古屋市では、公園を活用した「いきいき体操」イベントが高齢者に人気だ。毎朝6時半、30人ほどの高齢者がラジオ体操を皮切りに、ストレッチや太極拳などを楽しむ。「運動というより、みんなと会えるのがうれしい」と語るのは75歳の男性。彼のように"続けられる"運動が鍵となる。
提案:
毎日15〜30分、散歩やストレッチを日課にする
地域の体操教室やウォーキングクラブに参加する
家の中でもできる「座りながら体操」を習慣化
3. 睡眠:眠れぬ夜をどう過ごすか?
高齢者の多くが「早寝早起き」を実践しているように思えるが、実際には「夜中に目が覚める」「寝つきが悪い」といった悩みを抱える人が多い。日本睡眠学会の調査(2021年)によると、70代の約4割が慢性的な不眠傾向にあるとされる。
その要因には、加齢に伴う睡眠サイクルの変化だけでなく、日中の活動不足やストレス、薬の副作用もある。
提案:
朝は必ず太陽の光を浴び、体内時計をリセットする
午後3時以降のカフェイン摂取を控える
寝具や室温、照明などを見直して睡眠環境を整える

4. 心の健康:独居と孤独にどう向き合うか
2022年の内閣府の「高齢社会白書」によると、65歳以上の単身世帯は約720万世帯に達し、年々増加傾向にある。独居は決して悪いことではないが、孤独感を放置すると、うつ病や認知症のリスクを高める。
東京都港区では、高齢者向けに月に一度「おしゃべりカフェ」を実施している。地域住民や学生ボランティアが参加し、会話を通じて心のケアを行う。参加者の中には「毎月この日を楽しみにしている」という人も多く、会話の"効能"を実感できる場となっている。
提案:
電話や手紙を通じて家族や友人との交流を維持
カウンセリングや地域の「心の健康相談室」を利用
ペットや植物など「癒しのパートナー」との生活も一案
5. 社会参加:支える側から、支え合う側へ
人生100年時代において、高齢者もまた「社会の一員」として活躍する場が求められている。厚生労働省の調査(2022年)によると、65歳以上の就業率は25.1%であり、ボランティア活動への参加率も高まっている。
静岡県藤枝市では、高齢者による「読み聞かせ隊」が小学校を訪問し、子どもたちに絵本を読む活動が続けられている。「自分が必要とされていると感じることが、生きる力になる」と、参加者は語る。
提案:
ボランティア活動に参加し、社会との接点を保つ
地域のサークルや趣味活動を通じて自己実現を図る
若者との世代間交流に参加し、知恵と経験を次世代へつなぐ
おわりに:老後を「最も豊かな時間」へ
日本では「老いること」はどこかネガティブに語られがちだ。しかし、長寿社会だからこそ、高齢期を「人生の集大成」として楽しむことができる。
健康に生きることは、日々の小さな習慣の積み重ねであり、社会とのつながりの中で育まれるものである。家に閉じこもるのではなく、一歩外に出る勇気こそが、健康な老後への第一歩となる。
老後を「余生」としてではなく、「本当の人生の始まり」として捉えられるような社会――それが、いま私たちが目指すべき未来の日本ではないだろうか。